はじめに
医学部入試対策について、インターネット上で様々な情報が錯綜しています。
- 「医学部受験生は難しい問題集までやらないとダメ」と言われたり、
- 「医学部受験は基礎問題と標準問題の完成度だ」などと言われたり、
- 「医学部受験は特殊な問題が出るから特化した対策をしないといけない」などと言われたり、
矛盾したメッセージが氾濫しています。この矛盾は国公立で50、私立でも30余りある医学部を全て一括りにして話してしまうからこそ発生しているとわたしは考えています。
このチャンネル(ブログ)ではこれまで、実際に50ある国公立大学の医学部入試の過去問を全科目コツコツ解き、分析動画(記事)をアップロードしてきました。このページでは、「国公立医学部入試に考察対策・論述対策・遺伝対策は必要?」という切り口で、生物の分析をまとめています。
動画でご覧になりたい方はこちら
グループA(非常に平易でコンパクトな問題集で十分。考察はほぼなし。)
- <易問高得点型> 山形、信州、香川、鳥取、長崎、鹿児島、琉球
- <標準問題型> 高知、新潟
- <英数二科目型> 旭川、秋田、島根、徳島
- <未分類> 宮崎
- 『基礎問題精講』『エクセル(発展問題Aまで)』『セミナー(標準問題まで)』で十分。
<標準問題型の補足>
高知大や新潟大は標準問題型ではありますが、理科は全体的に易しいのでグループAに分類しています。
<英数二科目型と共通テスト対策>
なお、英数二科目型の大学である旭川・秋田・島根・徳島の4大学も、共通テストでは生物が必要になりますが、令和3年度と同等のレベルであれば明らかにグループAです。流石に令和4年度は若干難化するとは思いますが、難化幅がどれほどになるかは予想できないので、生物の難化に備えて考察対策をするより、確実に点数に結び付く他の科目の勉強を優先する方が良いでしょう。
<宮崎大の難易度予想>
なお、宮崎大は令和4年度より前期試験で二次理科が追加されることが予告されていますが、後期試験の化学の難易度から推測するに、かなり易しい問題になると予想しています。
<まじで易しいので難問演習は禁忌>
結論として、この辺りの大学を志望するならば、あまり背伸びして難しい問題集に手を出したり、予備校の難しい講習取ったりするのもやめといたほうがいいですね。
グループB(概ね平易で考察は少ないが、マイナーネタもあるので厚めの標準問題集をやりたい。)
- <標準問題型> 熊本、大阪公立、三重
- <単科医大型> 奈良(前期・後期)
- <特殊型> 横浜市立、富山、大分、山口
- 『大森徹の最強問題集』『生物重要問題集』あたりが、問題収録数が多く推奨
標準問題型に挙げたこの3大学は初見の考察問題はあまり出題されず、比較的オーソドックスな問題の対策だけでOKです。単科医大型の奈良県立医大は意外なように思いますが、生物の考察問題は殆どないため、理科は生物有利になりやすいんじゃないかなあと考えられます。特殊型の4大学は考察対策をやるコストパフォーマンスはそう高くないものの、教科書の隅々まできちんと知識を押さえておかないと高得点は期待できません。
グループCマイナス(考察対策をしたいが、分野の偏りが激しいため、分野を偏らせて対策が出来る大学)
- <標準・短時間型> 千葉
- <単科医大型> 東京医科歯科、山梨、京府医、和歌山、滋賀、福島
- <特殊型> 福井
- 『標準問題精講』が鉄板だが、医学系分野に偏った対策でOK(生態や植物生理は後回し)
千葉大は考察問題を高速で解いていかないといけませんが、学部ごとに指定された問題を解く形式で、医学部医学科は医学系分野の問題を中心に解くことになるので対策はしやすい部類です。単科医大型のほとんどは、生物の作題担当の教授も医学部出身なのもあり、出題分野には非常に偏りが見られます。難しいですが、分野を絞ってしまえるので意外と対策しやすいと言えます。福井大も医学系分野にかなり偏っています。2003年まで福井医科大学という単科医大であった名残と言えます。山梨大に関しても同様です。
グループCプラス(考察対策が必要で、分野問わず満遍なく対策が必要な大学)
- <単科医大型> 札幌、浜松
- <標準問題型> 筑波、岡山
- <標準・短時間型> 神戸、広島
- <旧帝大型> 名古屋、東北
- <特殊型> 岐阜
- 『標準問題精講』を最初から最後までやり切るのが目標
<単科医大型の補足>
単科医大型でも植物生理や生態学からの出題を警戒しないといけないのは札幌医大と浜松医大です。札幌医大に関しては物理が簡単すぎる一方、生物はかなり難しめなので、生物選択は受験を推奨しません。どうしても生物選択で札幌医大を受ける場合は、化学の重点対策で化学で点を稼ぎ、生物は考察系問題集を省いて、典型問題の得点だけ狙うスタンスを薦めます。浜松の場合は生物も難しいですが物理も難しいので、生物選択でも受験してオーケーです。
<標準問題型/標準短時間型の補足>
標準問題型の筑波・岡山は知識問題もありますが考察問題もあり、必要最低限の点数で良ければ考察までやる必要はありませんが、合格者平均レベルまで載せたい場合は考察もやる必要があります。標準・短時間型の神戸大と広島大は、制限時間が短いにもかかわらず全大問に初見の考察問題が盛り込まれておりかなり重めなので、物理選択で受験することを薦めます。ただし令和3年度の神戸大では物理難化・生物易化との情報がありましたので逆転している可能性があります。またリメイク版動画で詳細をご報告します。
<旧帝大型/特殊型の補足>
名古屋大・東北大は旧帝の中でも難易度はまだ控えめですが、東北大はグループDに分類するかどうかは少し悩んだくらいです。特殊型の岐阜大は必要最低限の得点で良ければ考察対策は不要ですが、考察まで出来るとアドバンテージが取れます。ただ物理選択で行くほうが若干有利です。
グループD(最難関の考察問題が出題)
- <旧帝大型> 東大、京大、阪大、北大
- 『標準問題精講』『思考力問題精講』までやりきりたい
北大に関しては物理必須なので、物理・生物の選択は可能ですが、化学・生物の選択は不可であることに注意をしてください。難しい考察問題ばかりですが、受験生の学力レベルも高く、大いに生物の学力差がつきます。最高峰レベルの考察系問題集まで仕上げたい大学群になります。それぞれの大学でかなり特徴があり、過去問対策も非常に重要です。
(知識の)論述対策が必要な大学
- <易問高得点型> 信州、鳥取、香川
- <標準問題型> 岡山
- <単科医大型> 東京医科歯科、山梨、奈良(前期・後期)
- <特殊型> 横浜市立、大分、富山、山口
- 『生物 記述論述問題の完全対策』など論述用問題集が有効
<易問高得点型でも論述対策には注意>
論述対策を受験勉強のどこかのフェーズで追加することを薦める大学群に関して説明します。易問高得点型では、信州・鳥取・香川大です。これらの大学は易しいですが論述力が低すぎると他の受験生に差をつけられてしまうかもしれません。特に信州大では要警戒です。
<岡山大は何をやっても効果的だが…>
標準問題型では、岡山大です。岡山大は良くも悪くもバランスが取れた出題であり、典型問題あり・考察問題あり、遺伝問題あり・論述問題ありと、やればやるほど点数は上がりますが超コスパの良い対策があるというわけではありません。
<単科医大型/特に医科歯科と奈良は注意>
単科医大型では、東京医科歯科大、山梨大、奈良県立医大前期・後期になります。医科歯科も山梨も考察問題というよりは論述問題の対策が最重要課題です。奈良に関してはそもそも考察問題の出題そのものが控えめです。
<特殊型/横浜市大の論述は重め>
特殊型では、横浜市立大、大分大、富山大、山口大になります。特に横浜市立大での論述問題が重めですので対策が必須です。
<論述用問題集>
論述用問題集としては、「生物 記述論述問題の完全対策」なる問題集が駿台から出ていますが、普段の基礎固めからなるべく文章で色々な生物現象を表現することを意識して勉強するよう心がけてください。
遺伝対策が必要な大学
- <標準問題型> 岡山
- <標準・短時間型> 千葉、広島、神戸
- <単科医大型> 京府医、和歌山、札幌
- <旧帝大型> 京大、阪大、北大、東北大、名大
- <特殊型> 岐阜
- 『大森徹の生物 遺伝問題の解法』が鉄板。
<標準問題型/標準短時間型の補足>
次に遺伝対策を受験勉強のどこかのフェーズで追加することを薦める大学群を説明します。標準問題型では岡山大です。2年に1回くらいのペースで出題されているので対策必須です。標準・短時間型からは千葉・広島・神戸を挙げます。時間がないのに遺伝計算まで必要なのは中々つらいですね。
<単科医大型の補足>
単科医大型からは京都府立医大、和歌山県立医大、札幌医大を挙げます。単科医大型は集団遺伝くらいのものならどこの大学でも出ていますが、本格的な遺伝の問題が出題されているところはそれほど多くないようです。
<旧帝大型の補足/意外と東大で遺伝はでない>
旧帝大型からは、京大・阪大・北大・東北大・名古屋大です。殆どすべてですが、東大だけは遺伝の出題が控えめです。他の旧帝では遺伝で理不尽な難易度の問題が出題されることも多いですが、東大ではそれほどでもなく、そういう意味で東大は生物で極端な高得点を狙える珍しい大学の1つと言えます。
<岐阜大の補足>
特殊型からは岐阜大です。考察が難しいところは遺伝もセットで出題して難易度を上げる傾向がありなかなか大変ですが、裏を返すと考察も遺伝対策も仕上げてしまえばかなりの差をつけることができます。まあとはいえ物理選択で受験する方がラクっちゃラクですけどね。
<遺伝問題の鉄板参考書>
遺伝対策の鉄板参考書と言えば、「大森徹の生物 遺伝問題の解法」になります。参考書だけでも何とかなるとは思いますが、各予備校の夏期講習でも遺伝対策の講義が開講されてますので、必要な方は取ってみても良いかと思います。
生物の学習の進め方(基礎編)
- 学習開始にあたり、以下3冊は即準備する。①教科書、②資料集、③『大森徹の最強講義』
- どの大学でも基礎固めが最も重要。授業の受講⇒ノート作り⇒関連分野を調べノートに追記
- ノート作りと並行して、『リードlightノート生物基礎/生物』も実施。※セミナー/エクセルの基本問題でも可。
- 『リードlightノート生物基礎/生物』が終わり次第、『基礎問題精講』へ。※セミナー/エクセルの標準問題(発展問題A)でも可。
- 基礎固めだけで、どれだけ短くまとめても半年くらいはかかる見積もりで。
最後に生物の学習の進め方・スケジュールに関してご説明します。
<まず買うもの>
生物の学習を始めるにあたって、①教科書、②資料集、③大森徹の最強講義の3冊はまず真っ先に購入してしまいましょう。
<基礎固め/授業も受講しながらノート作り>
どの大学を受けるにせよ、基礎固めは最も重要になってきます。基礎固めに関しては、何かしらの授業を受講しながらノートを作成し、教科書、資料集、大森徹の最強講義などを参照しながら関連分野について調べ、ノートに追加の書き込みをしてください。授業に関しては学校の先生の授業でも構いませんし、予備校の先生の授業でも構いません。無料の映像授業では、「Tryit(トライイット)」などのYoutubeチャンネルで新課程対応で生物の全範囲に関して授業動画が公開されています。ついでに私も生物をメインに指導しておりますから、私に個人指導を頼んでもOKです笑
<リードlightノートで基礎の定着確認>
授業の受講とノート作りを行いながら、基礎的事項のチェックを目的にリードLightノート生物基礎/生物を行ってください。セミナー、エクセルの基本問題、基礎問題も概ね同じレベル帯とは思います。
<基礎問題精講で典型問題のフォロー>
リードLightノートが終わり次第、基礎問題精講に取り組み、分野ごとの頻出標準問題をマスターしてください。セミナーの発展問題、エクセルの発展問題Aも概ね同等のレベルです。ここまでが基礎固めで、殆どの受験生で、およそ半年の時間がかかります。あまりこの過程を焦って短期間で済ませてしまうと、この後の対策が全て無駄になってしまう可能性が高いです。グループAの大学群であれば、この辺りの対策をしっかり行うだけでも合格者平均レベルの得点は期待できます。グループB,Cの大学群でも最低限の点数はどうにか確保できると思われますので、基礎固めはしっかり行うようにしてください。
生物の学習の進め方(グループB以上)
- グループBの推奨問題集は『大森徹の最強問題集』『生物重要問題集』(3か月程度必要)
- グループCの推奨問題集は『標準問題精講』(2~3か月程度)
- グループCマイナスは、分子生物・体内環境から固め、細胞生物、発生、神経、進化と系統と続く。
- グループCプラスは、分野のヤマを張らずに全範囲実施。
- グループDの推奨問題集は『標準問題精講』+『思考力問題精講』(計4~5か月程度)
- 遺伝対策・論述対策が必要であれば並行して行う。
- 基礎固めがしっかりしていれば、共テ対策は1か月くらいでも大丈夫。
<グループBの大学群の勉強の仕方>
グループBの大学群では初見の考察問題はそう多く出題されていないものの、生物の幅広い範囲に関して出題が見られます。そのような大学群で他の受験生にアドバンテージをつける問題集として、「大森徹の最強問題集」あるいは「生物重要問題集」に取り組むことを薦めます。基礎問題精講やセミナー・エクセルよりは少し難しめの問題集で、問題収録数が多く幅広いテーマに関して網羅されています。ただ次に紹介する標準問題精講よりは考察問題の比率は抑え気味です。概ね3か月程度の時間をかけて取り組み、あらゆるテーマに関して標準問題の完成度を高めていきましょう。遺伝対策や論述対策は、グループBの対策を行いながら同時並行で進めてください。
<グループCの大学群の勉強の仕方>
グループCの大学群では標準問題精講を薦めます。考察問題の比率が他の問題集と比べると多めで、かなり難しい問題集になっています。基礎固めがかなりしっかりしていないと、消化不良になる可能性もあります。時間に余裕があるなら、基礎固めの後、グループBの問題集を挟んで標準問題精講に進む形の方が自然な形で取り組めると思います。ただしほとんどの受験生は生物でそこまで余裕を持ったプランを取ることは出来ないかと思います。
<グループCマイナスとグループCプラスの出題範囲>
グループC-とグループC+で行うべき範囲が違います。グループC-の大学群では出題分野に大きく偏りがあり、多くの場合植物生理や生態の問題が出題されず、出題されたとしても非常に易しい問題になっています。分子生物や体内環境に関する問題が頻出であるケースが多く、まずはその2分野から固め、残る分野に関しては細胞生物・発生・神経・進化と系統を先に進めてください。代謝は多くの大学で後回しにしやすい分野かと思われます。グループC+の大学群では、全分野にわたって考察問題が出題されますから、山を張らずに全範囲を行うようにしてください。全範囲を行う場合はおよそ3か月程度要すると見込んでください。C-の場合は分野を絞るためある程度は短くなります。遺伝対策や論述対策は、グループCの対策を行いながら同時並行で進めてください。
<グループDの大学群の勉強の仕方>
グループDの大学群では思考力問題精講をプラスアルファで積んでおくことを薦めます。ただこのレベルの受験生を個人指導したことはないので、もっと良い方法があるかもしれません。思考力問題精講は考察問題の中でも難易度が高く、生物学の背景知識の理解に加え、初見かつ長いリード文の設定の理解、データの読み取りと解釈を高度なレベルで要求する問題が並んでいます。問題のチョイスが現代的かつ良質であるためか、同じようなテーマの類題が旧帝大の入試の間で使いまわされているケースもしばしば見かけます。時間が無ければ過去問対策優先ですが、「難問頻出」の考察テーマが並んでいるため、時間に余裕があれば取り組んでおきたい問題集と考えています。
<共通テスト対策に関する補足>
最後に補足として、共通テスト対策はこれまでの経験上1か月もあれば殆どの受験生は大丈夫です。ただし基礎固めがしっかりできていることが条件です。共通テスト対策で気を付けることは、「読んだら分かる考察問題」を確実に得点出来るようになるということです。リード文がやたら長くダラダラと設定が列挙されていますが、生物の勉強を殆どしていなくても答えを導ける問題が共通テストには多く出題されています。このような問題を得点出来るようになるまで何か月もかかるケースは稀です。
まとめ
- 「考察対策が不要な大学」が半分、「考察対策まで仕上げたい大学」が半分。
- 出題分野に偏りがあるケースも多く、論述や遺伝対策の要・不要についても大学個別の対策を強く意識する必要がある。
生物の勉強法を見直したい、受験校対策を知りたい
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