<傾向と対策>奈良県立医科大学(医学部医学科・前期)謎多き「トリアージ」試験。その全貌を公開。

総評

  • 数学はトリアージのコンセプト通り優先順位をつけなければならない
  • 英語は作文力重視の試験。原則完走したいが最後の自由英作文は時間と相談でスルーも許容
  • 理科は1科目選択。知識重視の生物、化学を選ぶのが点数安定しやすい。物理なら他科目ある程度犠牲に
二次であまり差がついていないのが現状。共通テストできちんとアドバンテージを付けたうえで出願したい

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入試の基本情報と面接

  • 二次比率50%
  • 面接点は0点。5分前後で一般的な内容。
  • 後期重点型の大学。募集定員 前期:22名 後期:53名。ただし後期の合格難易度はかなり高め
  • 前期試験の特徴は「トリアージ試験」。数学・理科・英語を180分で一気に解く
  • 理科は共通テスト2科目→二次1科目
  • 公民は1科目受験可能。「倫理」「政治経済」「現代社会」使用可能
  国語 社会 数学 理科 英語 面接 合計
共通 50 50 100 150 100 450
二次 150 150 150 450

二次比率は50%で、完全にイーブンです。面接点はゼロ点で、5分前後の面接で概ね一般的なことが聞かれるようです。面接一発不合格の話は聞いたことはないので、面接リスクは低そうです。

奈良県立医大はどちらかというと後期重点型の大学で、前期試験の定員は22名ですが、後期試験の定員は53名もいます。とはいえ後期試験は京大や阪大など関西の超難関大の医学部に不合格だった層が流入してくるため、合格の難易度はかなり高めです。

前期試験は変わった試験で、「トリアージ試験」と呼ばれる試験形式を採用しています。災害現場などでの救急搬送は、患者さんに優先順位をつけて瞬時に行う必要があります。これをトリアージと呼びますが、奈良県立医大の前期試験はこれを意識した試験となっており、数学・理科・英語を180分で一気に解かせます。それぞれの科目でたくさんの分量の問題が課されます。解ける問題と解けない問題を優先順位をつけて捌いていく、そういうスタンスで試験を進めていくというコンセプトになっています。

更に特筆すべきなのは共通テストの理科は2科目の受験が必要なものの、二次の理科は1科目でOKなことです。理科の得意科目があればその1科目で勝負できます。また、公民は1科目受験が可能で、すなわち、倫理、政経、現社が選択可能です。

数学の分析<60分・5問>

<目標得点ライン>
満点150/H120/M90/L85
(H:極めてその科目が得意な人のライン M:合格者平均予想ライン L:合格者最低点予想ライン)

  • 大問5問、試験時間180分(3科目)
  • 難易度は標準〜やや難。大問1〜4:短答式、大問5:記述式。典型問題は少ないが序盤の問題は解答可能
  • 解きやすい問題、解きにくい問題がはっきり。50〜60分程度で処理可能
  • 短答式で確率&ベクトル、記述式で数3微積が頻出。数2微積、速度、データの分析等、二次試験の数学ではマイナーな出題に注意
  • 対策:網羅系問題集で解法インプット必須。アウトプットは下位旧帝大レベル問題集まで

<試験問題の概要>
大問5問構成で、3科目で180分ですから、数学にはおよそ60分が割けます。全体的な難易度は標準~やや難レベルです。大問1~4は答えのみを書く形式で、大問5は記述式になっています。令和2年度の試験では、大問1は5分程度の短時間で解ける難易度、大問2以降については序盤の小問こそ解答しやすいものの、後半の問題はやや難レベルのものが多くなっています。

全体的に典型問題は少なく、斬新な問題設定が多いですが、問題文に沿って素直に考えれば大問の序盤は概ね解答できるでしょう。解きやすい問題と、解きにくい問題は比較的はっきりしており、解きやすい問題だけにフォーカスを当てて処理をすれば短くて50分程度、長くて60分程度で処理可能です。70分、80分と伸ばしてもやや難の問題の一部が拾えるかも、といった程度であまり点数は伸びません。

<頻出分野>
短答式問題では確率とベクトルが頻出で、記述式問題で数3微積がよく出題されています。数2微積、速度、データの分析など、二次数学ではややマイナーなネタも出題されることがあるのには注意をしてください。

<奈良県立医科大(前期)数学の対策・インプット編> 
典型問題の出題は少ないものの、序盤の取り組みやすい問題を手堅く取るために、「青チャート」、「フォーカスゴールド」、「1対1対応の演習」などの網羅系問題集での典型問題の解法インプットは必須でしょう。

<奈良県立医科大(前期)数学の対策・アウトプット編>
アウトプット演習は「やさしい理系数学」や「標準問題精講」などの下位旧帝大レベルの問題集まで取り組めばそれなりの点数にはなるでしょう。

英語の分析<60分・3問> 

<目標得点ライン>
満点150/H120/M110/L100
(H:極めてその科目が得意な人のライン M:合格者平均予想ライン L:合格者最低点予想ライン)

  • 大問3問、試験時間180分(3科目)
  • 《大問別分析》
    大問1:長文問題。
    語彙&内容:やや易。オーソドックスな設問でほとんど差がつかない。15−20分で処理
    大問2:自由英作文(120words)
    大問3:自由英作文(80words)
    オーソドックスだが英作文2題を40-45分で解けるかどうかが大きなポイント。
    早い段階から英作文対策は入念に。大問3は配点少ないためスルーも選択肢
  • 事実上、英作文の試験。Readingは差付かず。

<試験問題の概要>
3科目で180分ですから、英語にはおよそ60分が割けます。大問は3問です。

<大問ごとの内容と対策>
大問1は通常の長文問題で、語彙・内容共にやや易しいレベルです。設問もオーソドックスなもので、内容説明問題が大半ですが短文の英作文問題も交じっています。そもそもの長文がかなり簡単なので、内容説明問題では殆ど差が付きません。15~20分程度で処理できるでしょう。

大問2は120ワードの自由英作文、大問3は80ワードの自由英作文になっています。オーソドックスな問題ですが2題を40~45分で処理しなければいけませんので、かなり慣れていないと処理できません。

<奈良県立医大英語の対策>
自由英作文を短時間で処理できるかどうかが大きなポイントになってきますし、また英作文の配点は全体の半分を超えておりますので、早い段階から対策は入念に行っておきましょう。ただし、最後の大問3は配点は20点しかないので、あまりにも時間が切羽詰まっていればスルーしてしまうのもアリです。

化学の分析<60分・18〜19問> 

<目標得点ライン>
満点150/H130/M115/L110
(H:極めてその科目が得意な人のライン M:合格者平均予想ライン L:合格者最低点予想ライン)

  • 試験時間180分(3科目)
  • 小問18-19問構成。理論8問、無機3問、有機3問、高分子5問。高分子の比率高く、直前対策のコスパ良い
  • 60分で完走可能だが、後半に配置されている高分子、有機、無機の知識問題から取り組み理論の計算問題は残り時間と相談
  • 難易度はやや易しい〜標準レベル
  • 対策:「重要問題集」のA問題レベルで十分。基礎問題、標準問題を短時間でミスなく解答。直前は高分子の分野をフォロー

<試験問題の概要>
3科目で180分ですから、化学には60分割けることになります。小問18~19問構成で、令和2年度ではそのうち8問が理論、無機が3問、有機が3問、高分子が5問となっています。高分子の比率がやや高めで知識問題も多いので、直前対策としては高分子が最もコスパがいいかもしれません。

<時間配分について>
実力があれば恐らく60分で完走できるのですが、実際の試験では何が起こるかわかりませんので、後ろの方に配置されている高分子、有機、無機の知識問題から取り組み、理論の計算問題は残り時間と相談で取捨選択しながら進めていきましょう。全体的な難易度はやや易しい~標準レベルで、1問1問はそう難しい問題はありませんが、少し計算が重いなあと思う問題もあります。とはいえ化学の勉強をきちんとやってきた受験生であれば、やや煩雑な計算問題も力業でねじ伏せることも可能かと思うレベルです。

<奈良県立医科大学(前期)化学の対策>
「重要問題集」、それもA問題レベルで構わないので、基礎問題、標準問題をきちんと短時間でミスなく解答できるようにトレーニングしてください。そして試験直前は重要問題集などでは手薄になりがちな高分子の分野について、教科書準拠の問題集などを使ってフォローをしてください。

物理の対策<60分・4〜5問>  

<目標得点ライン>
満点150/H135/M105/L100
(H:極めてその科目が得意な人のライン M:合格者平均予想ライン L:合格者最低点予想ライン)

  • 試験時間180分(3科目)
  • 大問4〜5問構成。力学、電磁気必出。波動、熱、原子は出題されないことも
  • 難易度は標準レベル。所々やや難も
  • 70分割ければどうにか完走できるが…物理完走のためには他科目で工夫が必要
  • 対策:「重要問題集」や「名門の森」等の標準的な問題集でOK。問題見てすぐに解法の見通しがつくようになるまで何度も繰り返す。見直し時間は取れない。普段から正確に

<試験問題の概要と頻出分野>
3科目で180分ですから、物理には60分が割けます。大問4~5問構成で、力学や電磁気については必ず出題されますが、波動・熱・原子については年度によっては出題されないこともあります。全体的な難易度は標準レベルですが、所々やや難レベルの問題も見受けられます。また小問によっては計算が煩雑な問題もあるため、そのような小問は飛ばしていきながら進める必要があります。

<時間配分について>
物理に70分の時間が割ければどうにか完走できるくらいの分量で、かなりボリュームのある試験です。どうしても物理選択で完走を狙うなら、数学を50分程度で済ませるか、英語の自由英作文を1問捨てて、空いた時間で物理の問題を解くなどの工夫が必要になります。

<奈良県立医科大学(前期)物理の対策>
「重要問題集」や「名門の森」などといった標準的な問題集で構いませんが、問題を見てすぐに解法の見通しがつくようになるまで何度も繰り返してください。また見直しの時間はあまり取れませんから、普段の問題演習から正確な解答が出来るように丁寧に取り組んでくださいね。

生物の対策<60分・10問> 

<目標得点ライン>
満点150/H130/M115/L110
(H:極めてその科目が得意な人のライン M:合格者平均予想ライン L:合格者最低点予想ライン) 

  • 試験時間180分(3科目)
  • 大問10問構成。分野偏りはほとんどなし
  • 難易度はやや易しい〜標準。知識問題がほとんどで考察問題多くない
  • 制限時間はノンストップなら50分以内可能
  • 対策:「生物用語の完全制覇」等の難しめの知識問題集で固めた後、「基礎問題精講」等標準的な問題集で典型問題を瞬時に解く。余裕があれば論述用問題集にも取り組む。遺伝は後回し。本当に余裕があれば対策を

<試験問題の概要と頻出分野>
3科目で180分ですから、生物には60分程度が割けます。大問10問構成で、分野の偏りについては殆どなく、植物生理、生態、進化なども含めすべての分野から出題されています。
全体的な難易度はやや易しい~標準レベルで、知識問題が殆どで考察問題があまり多くありません。考察問題が出ていたとしても典型問題で、そう難しくはありません。
ただ知識問題で生物史などやや古典的な内容が出題されることもあるので、知識問題のフォローについてはしっかり行う必要があります。

<時間配分について>
解答に60分使えますが、知識問題がメインになるので、ノンストップで解答を進めれば50分以内で攻略可能かと思います。万が一難しめの問題が出ても悩み過ぎずに、その時間を英語の英作文などに使う方が賢明です。

<奈良県立医科大学(前期)生物の対策>
知識問題の対策のために「生物用語の完全制覇」などの難しめの知識問題集で知識を固めた後、基礎問題精講など標準的な問題集を用いて典型問題が瞬時に解けるようにトレーニングを行いましょう。余裕があれば、論述問題もあるので、「生物記述論述問題の完全対策」などの論述用問題集にも丁寧に取り組んでください。遺伝については、出題があったとしても恐らく後回しにするので、対策は本当に余裕があればで構いません。

「トリアージ」とは?

  • 災害現場などで多くの負傷者が出てしまった場合に限られた時間と医療資源を最大限活用するため、負傷者の重症度と緊急度を考慮して救護や搬送、治療の優先度を決めること
  • 優先度は4色のタグで示される。
    緑:自力歩行可能で軽症
    黄:重症ではないが要搬送かつ緊急ではない
    赤:最優先。すぐに処置すれば救命可能
    黒:死亡または救命が非常に困難
  • 「命の選別」となり倫理的問題を大いに含む。小論文テーマとしても時々出題される

前期試験のテーマである「トリアージ」ついて簡単に説明します。トリアージとは、災害の現場などでたくさんの負傷者が出てしまった場合に、限られた時間と医療資源を最大限に利用するため、負傷者の重症度と緊急度を考慮して救護や搬送、治療の優先度を決めることを指します。

優先度は色のついた4種類のタグで示され、緑色のタグは自力で歩行の可能な軽症であるため治療の優先度は低い負傷者、黄色のタグは重症ではないものの搬送が必要で、かつ緊急ではない負傷者につけます。赤タグが最優先のタグになり、すぐに処置をすれば救命可能な負傷者が対象です。最後に黒タグで、このタグは死亡してしまった負傷者、または救命が非常に困難と判断された負傷者が対象になります。

このトリアージの考え方は、負傷した患者さんに「命の選別」をすることにほかならず、倫理的問題も大いに含むため、小論文のテーマとしても時々出題されます。興味のある方は是非一度詳しく調べてみて、色々と自分の考えを深めていってはいかがでしょうか。

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